Warumiの柱

「こころミュージアム」のキュレーター。Warumiの「こころの魔法」研究報告です☆

琵琶をめぐる冒険

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安田登氏をご存じでいらっしゃるだろうか?

もはや何をされている方、とお伝えするのも困難なほど様々な顔をお持ちでいらっしゃる方である。代表的なのは能楽師のお顔であり、その他めっちゃ色々な舞台やら、何やらをおやりになっていて、且つロルフィングというボディワーカーのお顔もお持ちであり、嗚呼、ここでは枚挙に暇がないのでこのくらいにしておきます(ご興味をお持ちになられた方はこちらをご覧ください)。

私にとって、安田さん(面識もないのでなんとお呼びしたらいいのか煩悶している)との出会いは八重洲のブックセンターのイベント情報を知った所から始まった。それは安田さんが『疲れない体をつくる「和」の身体作法』という文庫本を出された時の出版イベントだった。

大学院を休学して心理の世界から逃避行をしていた頃、とにかく色々なことが煩わしくて、あまり好きでもない仕事に没入するだけの生活をしていた。朝、むりやり起きて会社に行けさえすれば、クレイジーに仕事をして他のことを考えずに済んだ。溢れるようにあった種々様々な先達たちへの興味を失って、そして、あれだけ通い詰めたスカパラさまのライブ詣で(これもまたいずれたっぷりと語りますよ!)からもすっかり引退し、まあとにかくあらゆることに興味を持てなかった時期だった。いわゆるひとつのCrisisだった。

そんなある日、ふと前述のイベントを知ったのである。書店が会社からも近かったこともあり、久しぶりにひとの話を聞こうかな、と思い立って、そのイベントに参加することにした。「能」ってちょっと興味があるけど怖くて、わけわかんなすぎて近づけなかったから、出会いのとっかかりになったらうれしいな、と思ったのがひとつ。そしてもうひとつ。その昔、ロルフィングというものにも興味津々だったのにもかかわらず、結局敷居が高そうでセッションを受けるのを諦めちゃったことがあった。その偶然の重なりにこころが向いたのだ。今思っても、そんな時期に自分にはちょっとハードルが高いなあ、と思っている世界の人の話を聞きにいったのがわけ分からないが、まあ、人生って意外とそういうもんなのかもしれない。

イベントが始まってまず驚いたのは安田さんの声だった。マイクなしでいいですかね?いいですよね?と、いきなり!100人くらい?いただろうか?その聴衆相手にだだだーっと話し始められた。その声の大きさと広がり!とにかく凄かった。空気が震えてるっ!って思った。お話の中身も色々ぶっ飛んでいて(すみません、詳細はもうほとんどよく覚えてない)私は口を半開きにしつつ聞き入っちゃったんだけど、最後になぜか「たーかーさーごーやあああああーーー!!こぉのぉうらふねにぃーーー」と、高砂の謡に全員参加させられたのにはたまげた。なに?なんなのこの会!?って気分が最高潮に上がった!

私はめったやたらに人のサインとか、別に要らないし~って、(斜に構えて)もらうこともないのだけれど(それよりもっと欲しいものがあるのだ)、その時はいそいそとサインの列に並んだ。そのくらい圧倒的だった。

安田さんについて熱く語るのはまた別の機会しようと思う(語りたいことがありすぎて話が戻って来られなくなっちゃう!)。そのイベントで度肝を抜かれた私はそれから安田さんがやっておられる「寺子屋」やお勉強会的な集まりに熱心に出かけるようになり、「論語」や「古事記」について、いやそれよりもそれらをベースに三千世界に通じる奇想天外、自由すぎる安田さんのお話に口を半開きにさせられ続けた。

また前段が長くなりました。。。そしてお話はいきなり「琵琶」に戻るのである。

その安田さん、NHKの100分de名著の「平家物語」の会にゲスト講師で出演なさったのだ。もちろん私もかぶりつきでテレビを見ていた。平家物語、だからもちろん琵琶法師の語りがある。シルクロードの琵琶ではないけれど、その番組に出ておられた塩高和之さんの琵琶にまたおおお!となった。一言で言えば音がめちゃめちゃかっこいいのである!それでもってあの安田さんのお声である。

そしてその番組からいくばくか経って、夏の頃だったと思う。安田さんが塩高さんと平家物語を語る会をやる、という話を聞きつけ、すわ、と馳せ参じた。音は生音に勝るものはないのである!(このあたりもまたいずれ、しつこいくらいにスカパラさまについて書かせて頂こう!)。

小さなスナックで間近で聴いた音は破壊的に沁みた。私は基本鍵盤をぐわんぐわんやりながら弾く、ちょっとクレイジーな音楽人に目がないのだが、塩高さんもそんな感じでなかなかいっちゃってる人だな!と勝手に思い込んだ(最大の誉め言葉です)。

音は不思議だ。匂い、香りもそうなんだけれど、それとはまたちょっと違ったものを想起させられる、というか、違う世界に瞬間ワープできるのだ。匂いとかはちょっとそれに時系列が入ってくる。だけど音の世界には時がない。一瞬の音の連続で、右から左に流れる時間の世界のものではないって感じ(ややこしくてごめん)。実に安田さんの存在って私にとっては音の世界って感じだな。

ということで、私は琵琶の音っていいなあ!どこかで習えないかしらん~などとyoutubeをぐるぐるしながら、依然もろもろ忙しい日々をやり過ごしていた。それが去年の夏から秋にかけてのことだった。

そして!そんなネットサーフィンの中で、こちらで皆さまに熱く語った、正倉院の五弦の琵琶のお姿がお出ましになられたのだった。

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正倉院展が東京開催ってことでも充分胸熱なのだが、シルクロードのシンボル!五弦の琵琶に東京でお会いできるのだ!久しぶりに指折り数えるような気持ちで東博に向かった。それが初秋だった。

この五弦の琵琶を見た帰り道、浮き立つようにコーフンしながら帰りの電車の中、いろいろなイメージが私の中を去来した。五弦の琵琶はほんとうに素晴らしかった。螺鈿細工のお花がきらきらしていて、あのラクダに乗った旅人と、その上の花鳥文。そしてひとにたいせつに、それはたいせつに続けて来てであろうものが醸し出す、尊さいっぱいの存在感。

ところで、また話は少々脱線するが、この五弦の琵琶。これまたNHKびじゅチューン(ご存知ですか?)で既にフィーチャーされていたのをご存知ですか?私はこれを友人に教わって以来「転校しないで、五弦琵琶」というこの曲がお気に入りのひとつとなのである。

帰り道、たくさんのイメージの中でこの曲もまた私の中で鳴っていた。シルクロードの飛天の写真もたくさん。今までの天女さまのイメージもまたこれ次から次へと。電車に揺られながらたくさんのイメージを反芻していた。

そして私は、はっとしたのだ。

琵琶ってさ。。。もしかして、自分のことじゃね?と。

 

つづく