Warumiの柱

「こころミュージアム」のキュレーター。Warumiの「こころの魔法」研究報告です☆

カルピスといくばくかの思い出と。

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幼い頃の思い出、っていうものに最近ちょっと気持ちが向いていて。思い出せるいくつかを書いておこうと思う。

一番古い記憶、かな?定かじゃない。一時期、わりと山の中で育ったってこともあって、記憶を掘り起こそうとすると、ほんのりとだけどこわい気持ちがわいてくる。

なぜこわいかって、山の夜って本当に真っ暗になるのだ。まさに漆黒と言うにふさわしい。そんな環境で育ったためか、闇というのが自分にとってはこわくもあり近しくもあった。その感覚が、今もってこのからだの中にほんのりと残っている気がする。

恐らくほんの2~3歳の頃。寝る時間はとっくに過ぎていて、布団に入って寝てはいるものの、襖の間から隣の部屋の大人の話し声が、光と一緒に少しだけ漏れ落ちてくる。話の内容はわからないけれど、大人の声はちょっと不安気なトーンで、その音を聞きながら襖の反対側の壁を見ると、そこに黒い穴がぐるぐるしているように見えてくる。それがとてもこわいのだけれど「助けて!」なんて叫ぼうものなら、その穴に引き込まれてしまうことがわかっている。こわいから?こわいのに?目を逸らせずに、自分の気配だけを布団のなかでぐっと押し殺して、どうか見つかりませんように、とだけ願っている。

これが夢なのか記憶なのか定かではないけれど、この夜の記憶にしろ、昼間遊んでいた森の中にしろ、闇は自分のまわりのそこここにいつもあった。気を付けていないとその闇にさらわれたり、その闇の中からウルトラマンに出てくる怪獣みたいのが出てきちゃったりするから気が抜けなかった。

夜と言えば、車で移動することが多かった。特に冬。あたたかい車内で、曇るガラス越しに大きな月と追いかけっこをしていた。ほとんど対向車もいない真っ暗な夜中の道を、車はかなりのスピードで走るのだけれど、月はころころと転がりながら陽気に、そして絶対追いついてくる。子犬がじゃれてくっついてくるようで、月と張り合うのをいつもわくわくして見ていた。車の中はあったかくて、月はいつものようにまるまるしくて陽気だった。その競争に満足して、大概家に着く直前に眠りに落ちてしまうのだけど、車を降りるのが心底嫌でたまらなかった。私はずっと走っていたかった。

山の中とはいえ集合住宅的なところに住んでいたので、ご近所さまがまったくないってわけじゃなかった。けれど、やっぱり今の都会のように見渡す限り家、家、家、という景色じゃない。見渡す限り、山、山、山だ。

夜になると向かいのお山が黒いシルエットに変わる。昼間は全然こわくないし、気にも留めていないのに、その黒いシルエットの中に明かりが灯る夜になると、ああ、鬼とか魔女が帰ってきたんだなってちょっとこわくなる。私はこっち側のお山にいるし、家族もいるから差し当たってさらわれるって危険はない。でも、彼らは今日の獲物を大きな釜でぐつぐつ煮ている。その黒い液を飲まされると、記憶がなくなってしまって、もうここに戻って来られないかもしれない。だから魔女にはさらわれないように気を付けていなくちゃ、と、からだの奥をぴんと固くしながら、明かりを見ていた。テレビを見たり、ご飯を食べている間はすっかり忘れているのだけれど、寝しなに窓からまたその黒いシルエットを見ると、こわくてちょっとため息が出た。

住居のまわりには野山の草花がそこかしこに盛大にあった。私のお気に入りはシロツメクサとへびいちごで、シロツメクサでよく冠を編んで作った。従妹のお姉ちゃんがつくってくれたシロツメクサの冠を頭にかぶっているときは、ちょっと誇らしかった。シロツメクサはだいたい白かったけど、中にはちょっとピンクがかったお花もあって、ピンクのシロツメクサが混ざった冠はまた格別にうれしかった。

へびいちごは見つけた瞬間がとてもうれしくて、いくつもいくつも他の子と競争するように採って集めた。見つけた時にはあんなにかわいいのに、実だけをいくつも持ち帰って家で見ると、どういうわけか不揃いでそんなにかわいくない。おまけに大人は「これは毒だから食べちゃだめ」って言っていて、見つけるとコーフンして集めちゃって、かわいいのにかわいくないっていう私にはちょっと不思議な植物だった。

住居の後ろにはほんの小さな小川があって、小笹で舟をつくってよく流した。ふだんの水の流れはおとなしいのだけれど、山の天気は変わりやすくて、雨が降ると川面はぼこぼこと鳴りはじめる。そこに舟を流すと、あっというまに向こうに流れていってしまって、そのスピードが奇妙でおかしくて大声で笑った。その笹の舟にアカマンマ(イヌタデ)の実を沢山乗せて流したり、実をいっぱい集めてリカちゃんのごはんにした。これもピンクでとてもかわいいのだ。リカちゃんもきっとお気に入りだったと思う。ちなみにリカちゃんのだんなさんはウルトラマンだった。

気を付けないといけなかったのは、小笹はもちろん、ススキの葉だった。やつらは凶器のようによく切れる葉を持っているから、近づく時には要注意なのである。でもつい、その奥に採りたい花や実を見つけると、ススキの中を見境なく分け入ってしまって、手足をよく切った。切った日のお風呂はとてもしみるから、傷口を両手で覆ってお湯が当たらない様に用心しないといけなかった。ちょっとづつ手を離してお湯に慣らすのだけど、たいがいひどく痛くて、泣きたくなった。しかし懲りずに何度もまた手足を切った。

一方、あまり好きじゃなかったのは彼岸花、たんぽぽや、貧乏草、と呼ばれていたハルジョオンだった。今にして思うとビンボウグサ、なんてちょっとヒドイ名前じゃないか、と思うけど!ビンボウグサに触れるとビンボウ、というものになってしまうから、超!気をつけていなくちゃいけなかった。特に男の子はビンボウグサに目ざとくて、こちらの足がちょっとでも触れようものなら「ビンボー!えんがちょ!」とすぐに指をさされた。だからってこともないけれど、男の子ってほんとキライって思っていた。

そんな頃の(年少さんくらいかな?)特別な思い出がある。季節は多分初夏で、私は部屋の中にひとりいる。窓は全開で、レースとオレンジのチェックのカーテンが、新緑の風にゆらゆらとしていた。私はそのカーテン越しに外の景色を眺めながら、ガラスのコップでカルピスを飲んでいる。氷入りのカルピスがもう、夢みたいにおいしい。ひと口飲む度に、せいせいとした風が家の中に流れてきて、それにカーテンがゆらゆらと舞っている。午後の陽の光はまだ夕方までには間があって、でもちょっとだけ陰り始めている。

うまく言葉にできないけれど、完全に気持ちいい、満ちている感覚がそこにあって、今も尚この感覚は私のからだの中に、この映像とともにある。

御多分に漏れず、いろいろな思い出がある。けれど、このカーテンが揺れる風とカルピスの思い出の中にあるこの感覚は、大人になった私の宝もののようなもので、だからこの時期にきまってカルピスを買って飲む。

氷の音を聞きながら、あの感覚がまた戻ってこないかな、ってちょっとだけ願っている自分のことを知ってるけど、気が付かないふりをしながらただ、カルピスを飲んでいる。

 

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