Warumiの柱

「こころミュージアム」のキュレーター。Warumiの「こころの魔法」研究報告です☆

「魔法使いとリリス」ー魔法の切なさに思うこと。

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久しぶりに前知識なしの「小説」を読んだかもしれません(そして最近は、ドキュメンタリー寄りだったのでした)。

魔法使いとリリス (ハヤカワ文庫FT)

魔法使いとリリス (ハヤカワ文庫FT)

 オーブリイという青年が、すごもののグライレンドンっていう魔法使いに弟子入りするところから始まるこのものがたり。

私個人は、現実世界にこそ夢を見すぎる傾向があるせいか?どうも、所謂「ファンタジー」というものがあまり得意ではありません(ハリーポッターもそんなわけで読めていません)。

でも時折、これは別!これは好き!というものがいくつかあって、嬉しかったことに、この本との出会いもそのひとつになりました。

オーブリイ君が魔法修行中に共に暮らしているうちに、グライレンドンの妻であるリリスに恋に落ちてしまう。この恋が始まるのか、始まらないのかってくらいのところのシーンがいくつも重なって、とても美しいです。

全然テーマは違いますけれど、「日の名残り」的な世界観がお好きな方は楽しめるかもしれません。

以下ネタバレになるので、ご了承ください★★★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

魔法って何?

この本の中でグライレンドンがオーブリイに魔法を教えるに当たって、まず膨大な量の本(科学論文)を読めって言うんですよね。何故ならば、何か他のものに「変身」する時、そのものの習性、身体、骨格、本能。そういったものを「知識」として知らなければ、変身は出来ないし、出来たとしても変身に乗っ取られて?しまう。最初この定義?にちょっと唸ってしまいました。ああ、私たちが日常しているあれこれって、やっぱり魔法そのものなんだな~って、なんだか納得しちゃったので。

考えてみればそうですよね。他人とコミュニケーションを取ったり、料理をつくったり、何かを作ったり整えたり。そして今はこんな風にブログを通して見知らぬ人に自分の思いを伝えることが出来たり。こういう私たちの営みって、ひとつひとつがみんな魔法なんだな、と、改めて思わされました。

ってことで、オーブリイ君はせっせと本を読み、修行に励む。そして魔法で色々なことが出来るようになる。

その後のオーブリイのこのことばにはぐっと来ました。

「結局のところ、魔法って何だろう。使う者を変えることができないのに、そいつが世界を変える力のことなんだろうか。ぼくは魔法を使いはじめたとき、嬉しかった。(中略)ぼくの手の中で喜びのないものへと変わってしまったのに、それから眼をそらすことができないんだ。(中略)もううんざりしているときでも、もっと欲しいと求めてしまう」

自分がこうしたい!と思う未来のためにせっせと修行に励み、やっとその魔法が使えた時に見えてしまう闇。それまでに払った代償を回収するために、人はその闇を見なかったことにしてしまう。しかし、その闇を見なかった代償こそが人を苛むのではないでしょうか。そして、その闇に耐えきれず、逆に魔法の中毒性の方へとはまり込んでしまう。例えば、魔法=人生の成功と読み替えるとしたならば、それはとても切ないひとの所作であるように感じられます。

そして後半、魔法を使ってものの形を変えるということとは?という強烈なテーマがオーブリイの恋に伴うように展開されるんですが、これがたいへんに心に迫ります。

「愛する」という行為がお互いを変えてしまう。これは愛というものの誠に素晴らしい一面であり、他方、業のようなものを孕んでいるように思いました。そこに愛が確かに存在しても、愛したものを愛によって変えてしまうことは、愛するものをもとの世界に戻れなくしてしましまうかもしれない。或いは破壊してしまうかもしれない。それどころか、愛することによって、ふたりの関係性までも変えてしまうというこの矛盾。この矛盾に切なく懊悩するオーブリイのこころ。

そしてリリス。舞踏会で前を通る人に気付かれることなく佇むリリスの姿。そして愛するってことがどういうことなのかわからずとも、風に揺られるようにこころが動く様。変わりたくない、もとに戻りたいと訴えるリリスの瞳。切なさのかたまりのようなリリスです。

ふだん心理学的な見方で世界を見ることが多い私にとっても、人が変わる・変えることの意味や帰結とはなんだろうか、という宿題をもらったように感じています。

グライレンドンの存在、そしてそれぞれの切なさ

オーブリイ君の魔法の師匠、グライレンドン。とても現代的な魔法使い像?として描かれていて、下世話な表現をすれば、まるであなたの会社にもいる?ちょっぴりサイコ的パワハラ上司のよう。余談ですが、彼に対するオーブリイ君の受け答えが見事です。パワハラ系の上司の対応に悩まれている方。この本の中に処世のヒントがあるかもしれません。

「闇」を見ずして、逆にその闇のパワーをふんだんに自分の力に変え、人生をのしていく人物。しかし彼の愛は「所有」ということでしか表現ができない。あんなにすごい魔法を使えるのに、彼にとっての愛って、自分の魔法を使ってなにかを「所有」することなんだって、なんだかこれも切ないです。それも自分よりも弱いものしか「所有」しない(出来ない)。しかしその「所有」の力を誇示することでしか、なにかとつながれない。つながれない痛みなど超越してしまったかのような振る舞い、そして、実際表層的には痛みなど微塵も感じていないのだろうな、という彼の姿には、読んでいるこちらの方がちくっとした痛みを感じてしまいます。その心の底にどんなものが流れているのだろうと思わずにはいられないから。

こういった切なさは、殺す以外はどうにもできないものなんでしょうかね。読み終わった後も、グライレンドンはどんな生い立ちだったんだろう?と想像がやみません。

 

魔法によってつながったオーブリイ、リリス、そしてグライレンドン。それぞれの痛みとせつなさに気持ちを乗せながら読むと、読む者によってまったく違う世界を見せてくれるような、そんなファンタジーでした。

本当に魔法って何でしょうね。

 

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